● 舞台背景 ●

  ── 高度1000km、再突入速度マッハ20。

  直下のものとは異なる大陸から撃ち出された「それ」は
  ようやく高度を落とし、プログラムされた目標を向いた。
  弾道ミサイルを想定したレーダー網はその細い金属と木の複合体を検知せず
  「それ」は地上の誰にとっても不可視の槍として、使命をまっとうしようとしていた──

     「・・・なんだこれ。

  横からとある神格が手を伸ばして「それ」をつまみあげた。
  めでたしでたし。


剣と魔法の世界も今は昔の物語。
魔王やら邪神やら破滅が混沌とかどうとかなんか色々人間の敵っぽいものは、
やはり勇者様や騎士たちや王たちの連合軍とかそういうものに倒され尽くし、
人類は数を増やし文明を発展させました。

そんな時代に、時代遅れのマジックユーザー兄妹がおりました




  皇帝 「おっす いるかー
  リゼ 「ええい、こんなところに陛下がいるはずがない、斬れ斬れ、斬ってしまえい
  リオン「あ すいません。ちょうど『暴れん坊皇帝』がいいところで
  皇帝 「なんだ じゃ終わってからでいいぞ


   --- しばらくテレビ ---


  ------  「これで帝都のダニが一匹減ったな ははっ ざまあみろ!

  リゼ   「と思う皇帝であった

  皇帝   「今度の役者は口が悪いなぁ

  リオン  「今期はアンチヒーロー路線だそうですよ・・・ってなんか平然といますが

  リゼ   「神格が地上をひょいひょい歩いちゃいけないでしょ

  皇帝   「おう 非常事態だからな、さて何から話したもんか・・・

  リゼ   「偉い人っぽい演説なんか始めたら怒るよ。短くすませなさい

  皇帝   「簡潔にか? あー そうだな
        おお ゆうしゃよ だいまおうの しろに いってほしいのだ

  リゼ   「だいまおう(笑)

  リオン  「大魔王・・・

  皇帝   「その反応は予想してたし、逆の立場なら俺もやると思う、
        だが、いざやられるとすっげえムカつくなぁ おい



   --と言って取り出したのは 数本の杖


  リゼ   「どこの軍隊の(※注)・・・いや、博物館から取ってきたの?

  リオン  「中世様式の"ヒューマンキラー"!?

  皇帝   「おーおー さすがに兄貴のほうは詳しいな
        そうだよ 中世の人類が切り抜けた絶滅戦争の相手、
        魔王軍がヒトを殺すために作った装備だよ もう笑えんだろ?


  リオン  「どっから掘ってきたんですかい?

  皇帝   「いや 降ってきた

  リゼ   「ああもう 謝るから詳しく話して

  皇帝   「正確に言うと、魔王の離宮のあったところから打ち上げられて
        成層圏あたりから、こう 各国の首都に落ちてきたのを俺が


  リオン  「上空でキャッチしたと

  リゼ   「そんじゃ適当な国に通報して ナノスーツの特殊部隊でも送り込めばいいじゃない

  皇帝   「いまどき お告げで動く国とかねーよ。それにほれ
        離宮に何あるかは知らんが、いきなり核とか打ち込まれたらかわいそうだろ


  アカガネ 「人類の敵、という名前だけは覚えてるからね
        現代人ならそのくらいやるかも知れない

  皇帝   「・・・なんで竜がいるんだよ 安全保障上の悪夢みたいな家だな

  アカガネ 「おーい ハイハイ話をうける必要はないぞー
        そんな杖があるなら、"人間キラー"として調整された
        罠や武器、呪文なんかがわんさと

  皇帝   「待っているだろうから俺が直接来たんだよ

  リゼ   「神性を倒すための何やらもあると思うよ?

  皇帝   「召喚魔法知ってるか?神降ろしとか憑依ってやつを

  リオン  「ああわかった 一時的に半神ということにして、都合のいい側で受け止めると

  皇帝   「そうそう、呪いとかそういうの完全無視できるぜ

  リゼ   「いいと思うけど、そこにいる竜王級の戦力使ったほうが早くない?

  アカガネ 「私はパス

  リゼ   「えー

  リオン  「普通の反応だと思います

  皇帝   「だいたい竜がそんな勤勉でもう少し謙虚だったら
        他の生き物が滅んじまうよ


  アカガネ 「金も宝石もないなら いかない

  皇帝   「・・・とりあえず、召喚コストはうちの巫女で割引できるから
        お前さんがたに手を貸してもらって二人組みでだな


  リゼ   「え?あの巫女さん来てるの?

  皇帝   「あ

  リオン  「玄関?



  コロナ  「へっくしゅん



かくして、戦神たる皇帝の力を宿したふたりのマジックユーザーが 旅立ったのであった





   --のそり


  アカガネ 「神なんかがわざわざ人間をひっぱっていくのは

  アカガネ 「面白くないなあ うん

   --視線の先には、留守番をしているひとりのマジックユーザーがおりました

  アカガネ 「・・・半竜でも、十分に色々防げると思うんだけど・・・
        どうだい?



もうひとりも結局旅立っていった。





     ※注 魔法の杖は、われわれの世界の槍や小銃のように
        多くの地域で公然と所持することが制限されています。