ここはべスパー
商人や職人、冒険者などで賑わう町
僕もそんな町で生きる冒険者のひとり

「ゆめ〜夢はいらんかね〜」
仲間とトレジャーハントに行こうとする僕は
そんな声に足を止めた
「夢売りだよ〜」
見ればそこでは老人が行商を行っていた
年齢は幾つ位なのだろう
まだ初老のようにも、かなりの高齢にもみえる。そんな風貌だった
・・・さっきまでは誰もいなかった気もするが
そんなことを考えながらも老人の扱っているものに興味がわいた
仲間に待ってもらい、僕は老人の元へ向かった
「すみません。夢を売っているのですか?」
「夢を買うのかね?」
好奇心に任せて尋ねる僕に、
老人は果物やスクロールを扱っているかのように答えた
「ええ、ひとつよろしいですか?」
僕は夢が何なのか、それを知りたかったが
とりあえず買ってみることにした
「うむ、夢を買うのじゃな?」
老人はそう言うと、僕の顔をじっと見た
僕に夢を買う資格があるのか、それを確かめるように
「一つわかってほしいのじゃが」
「はい」
「夢とは、さめるものじゃ、そのことだけを覚えておいてくれんかの?」
僕の顔を見ながら老人はそう諭すように話した
夢
さめる夢
さめると言うことは、夢が終われば何も残らないということなのだろうか?
「では、羽と卵、どちらがよいかの?」
本当に残らないものだろうか?
何か言おうと思ったが、老人の言葉で僕は言葉を飲み込んだ
ぼんやりと思うだけで口にできるものではなかった
「それでは、羽をお願いします」
差し出されたもののうち、僕は羽根を選んだ
白く小さな羽根だった
これが夢なのだろうか?
小さなその羽根は、ぼくの手の中で何も言わずに横たわっていた
「その羽を何かにくるんで暖めてくだされ」
なんと言ったらよいのかわからずに、ただ羽を見つめる僕に老人はそう言った
僕はただ、うなずいて了解したことを伝えた
「それでは、どうかよろしくお願いしますじゃ」
そう言った老人の声を聞き、我に帰った僕の目の前には、もう老人の姿は消えていた
何事かと集まってきた仲間に僕は老人と羽根のことを伝えた
「とりあえず、暖めるものと、包む物をさがしてきます」
僕は近くの木から焚き付けを作り裁縫屋から裁断した布を譲ってもらい
その布に羽を包み、火の近くに置いた
変化はすぐに起こった
布がかすかに動き出し、ごそごそという音が聞こえ、そして
「ぴー」
弱々しいながらもしっかりした小鳥の鳴き声が聞こえた
(羽が・・・鳥に?)
布はまだごそごそといっている、さっきよりもさらにはっきりと動き出しているが
自力で布をどかせないらしく、布が揺れるだけだった
「布をどかしてやったほうがよいのでは?」
誰かの言葉で我に帰り、布をどかしてやると、そこには本当に小さな小鳥が一羽
「ぴー」
布がどけられたことで自由になった小鳥は
きょろきょろと辺りを見回した
「なんだ?」
「とりか?」
「羽が鳥になった・・・」
仲間たちの好奇心に満ちた目と、素直な感想が容赦なく小鳥に降り注いだ
「ぴー・・・」
大勢の人間の視線が恐ろしいのだろうか
小鳥は仲間達から逃げようと近くの木へ駆け出した
(まだ体力がないのか・・・)
生まれたてで体力がまだないのか、
小鳥の動作はひどい傷を追った動物のように弱々しかった
僕は仲間達にここに居て待っていてもらう様に頼むと
一人で小鳥の後を追った
小鳥は何かに傷つきおびえているようだった
何に傷ついているのだろうか?
人間におびえているのだろうか?
そんなことを考えながら僕は木の下に居る小鳥に向かった
小鳥は小さく震えていた
僕の存在すら小鳥を傷つけてしまいそうなぐらい
その姿は小さく儚げに見えた
「だいじょうぶですよ」
「ぴ?」
言葉でも傷ついてしまうのではないかと思えるその姿に
僕はできるだけ優しく話しかけた
少し緊張しすぎたか、不自然なぐらい丁寧な感じになってしまったが・・・
「僕はあなたを傷つけませんから」
「ぴ・・・きずつけない?」
「ええ、だいじょうぶです」
僕は確認するようにもう一度言った
近くで見て、僕は小鳥が実際にひどく弱っていること知った
体に傷らしい傷は見えないのだが、何かの試練を潜り抜けたように
その体は傷つき弱っているようだった
「ちょっとまっていなさい、いま元気にしてしてあげましょう」
「げんき?」
In vas mani
僕は小鳥の問いに答えるように呪文を唱えた
魔法の光が小鳥を包み見えない傷を癒してゆく
驚いたことに小鳥の傷は1度の呪文では直しきれなかった
僕は完全に直るまで、2度、3度と呪文を繰り返した
「どうです?げんきになったでしょう?」
僕は驚いている小鳥にいたずらっぽく言ってみた
小鳥は一瞬何がおきたのかわからないようだったが
「げんき・・・げんき!」
先ほどまでの弱々しい感じが消え、小鳥らしい活発さで僕の周りを飛び回った
元気という言葉がよほど気に入ったのだろうか?
何度も何度もつぶやいている
大切な人の名前を繰り返すかのように
僕のことも信用してもらえたようだった
(よかった)
何に対してかわからないが、小鳥を見てなぜかそう思えた
(どうかよろしくお願いしますじゃ)
老人のあの言葉が頭をよぎった
あの老人は僕に何を託したのだろう?

「さて、それでは仲間のところに戻りましょうか?」
「なかま?」
「そう、さっき居た人たちです」
「こわくない?」
「もちろんです。僕が保証しますよ」
小鳥は人間に怯えているようだった
僕はもう一度、大丈夫といい
小鳥と共に仲間の元に戻った
仲間たちは小鳥の帰りを待っていてくれた
帰りが遅れたことを皆に詫び、僕は小鳥に言った
「ね、怖くないでしょう?」
「うん、こわくない」
小鳥もすっかり皆に慣れたようだった
「おい、鳥がしゃべるなんて変じゃないか?」
誰かが無責任な言葉を投げかけた
「とり?とりってなに?」
小鳥は何を言われたのかわからないようだった
「鳥とは翼を持って大空を飛ぶもののことですよ」
仲間の誰かがそう小鳥に説明する
「おおぞら?おおぞらってげんき?」
「まぁ、晴れた空を見れば元気になれるかもしれないですね」
「おおぞらはきずつかない?」
「たぶん、傷つかないと思いますよ」
「おおぞら・・・」
小鳥は何か大切なもののように繰り返した
やはり空を飛ぶものにとって、空は大事なものなのだろうか?
この小鳥ならば晴れた大空はよく似合うだろう
僕はそんな風に感じた
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